遺言書を書くタイミング
遺言書と聞くと、「縁起でもない」「死ぬ前に書くもの」という印象をお持ちではないでしょうか?そのイメージはおそらく「遺書」からくるものだと思われます。
「遺書」とは、死に直面した人が、残された家族や友人などにプライベートな内容を書き残した手紙です。
それに対して、遺言書は意思能力のある元気なうちに、将来に備えて書くもので、権利変動を生じさせる法的効力をもった書類です。最近では任意後見や死後事務委任、尊厳死宣言書などとともに、「終活のひとつ」として、その必要性が注目されています。
言葉は似ていますが、目的はまったく違うものになります。
将来に備えてという意味では、保険と似ています。保険も入ることが目的ではなく、万が一の時に安心できるように備えることが目的です。また、がん保険も生命保険も、がんの人や死にそうな人が入るものではなく、逆に健康な時にしか入ることができないものです。
遺言書も同じです。元気で判断能力もある今だからこそ、遺言書を有効に遺すことができるのです。もし、認知症を疑われるような状態で遺言書を書いたとしたら、後に遺言能力を疑われてせっかく書いたものが無効と判断される可能性もあります。
遺言書の効力は死亡した時からです。それまでは何度でも自由に書き換えることができます。遺言書を遺すタイミングはいつか、それは思い立ったその時です。先延ばしにして後悔することだけは避けたいところです。
法定相続分と遺留分
遺言書がない場合は、相続財産は、民法で定められた法定相続分によって分けることになります。
その法定相続分とは違う分け方をする場合には、相続人全員で遺産分割協議をしてどのように分けるかを自由に決めることになります。遺産分割協議は全員の同意がないと成立しません。
この時、各相続人は最低でも自分の法定相続分は欲しいと主張することもできるので、話がまとまらない場合もあります。
しかし、遺言書がある場合には、亡くなった本人の意思である遺言書が優先されるので、法定相続分によることなく、遺言書の内容どおりに分けることになります。
この場合に、最低でもこれぐらいは欲しいと主張できる割合は、法定相続分ではなく、遺留分(親以外の相続人がいる場合、各法定相続分のさらに2分の1)のみとなります。しかも、この遺留分を主張できるのは、相続人の中でも、配偶者・子・親に限られ、兄弟姉妹は主張することができません。
遺言書って結構強いんです。「ある」と「ない」とでは相続手続の展開がかなり違ってきますよね。
※遺留分とは、兄弟姉妹を除く相続人(配偶者・子・直系尊属)に対して認められた最低限の相続分のことで、遺留分に相当する利益を相続財産から取得できる地位が保障されています。具体的には、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人である場合は、「被相続人の財産の3分の1」、それ以外の場合は、「被相続人の財産の2分の1」となります。この割合に各法定相続分を掛けて個別の遺留分を算出します。
相続順位/法定相続人と法定相続分
第1順位/子 2分の1 配偶者 2分の1
第2順位/親 3分の1 配偶者 3分の2
第3順位/兄弟姉妹 4分の1 配偶者 4分の3
※配偶者は常に相続人になります。
※半血兄弟(父母の一方のみが同じ)は全血兄弟の半分になります。
遺言書が役に立つ場合
内縁の妻の場合
長年夫婦として連れ添ってきたとしても、婚姻届けを提出していない場合は、いわゆる内縁の妻となり相続権がありません。内縁の妻に財産を残したい場合には遺言書を書いておく必要があります。
夫婦間に子がいない場合
例えば、子のいない夫婦のうち夫が死亡した場合で、すでにその両親も亡くなっている場合には、法定相続分では妻が4分の3、夫の兄弟姉妹が4分の1の割合で分けることになります。もし、残された妻の今後の生活のために財産はすべて妻に遺したいと希望する場合には、遺言書を書いておけば兄弟姉妹には遺留分がないので、妻に全財産を相続させることができます。
その他にも
・同性パートナーの場合
・認知症の方が推定相続人の中にいて、遺産分割協議ができないと想定される場合
・自分の老後の面倒を見てくれた娘に他の兄弟姉妹より多く相続させたい場合
・相続人ではないが、かわいい孫に財産を残したい場合
・相続人がいないので寄付をしたい場合
このような場合にも遺言書を書いておくことをお勧めします。
遺言書があれば、あなたの想いを実現したり、家族の負担を軽減したりすることができます。